市場に4K HDR TV、Mobile HDR端末が普及し、TVやSmart phoneで映画やStreamingを視聴している方も多いと思います。今回は、HDR認証規格について調査してみます。
HDRとは
HDRは、High Dynamic Range(ハイダイナミックレンジ)の略称で暗い映像信号から明るい映像信号まで広範囲に再生できる機能を意味します。TVは、電気信号を最終的に液晶パネル(以降、LCDと記す。)又は、有機ELパネル(以降、OLEDと記す。)で光に変換し映像を表示します。光出力である以上、パネルの発光能力に左右されるのでHDR TVに使用されるパネルは、高輝度まで出力可能なパネルが使用されています。HDRは、4K(解像度)、BT.2020(色域規格)、Bit深度10bit以上(Deep color)を駆使して映像を表示します。
HDRガンマカーブ
映画等の映像は、カメラで撮影し光信号を電気信号へ変換しBlu-ray diskやStreamingを通じて配信され、TVやSmart phoneで電気信号から光信号へ変換しパネルに映像を表示します。この過程で光信号を電気信号へ、電気信号を光信号へ変換する規則がありそれぞれ、Optical to Electrical Transfer Function(以下、OETFと記す。)、Electrical to Optical Transfer Function(以下、EOTFと記す。)と呼んでいます。HDRの光と電気信号変換は、Hybrid Log Gamma(以下、HLGと記す。)、Perceptual Quantization(以下、PQと記す。)が規定されています。HLGは、従来のStandard Dynamic Range(以下、SDRと記す。)と互換性を保ち相対輝度を扱いOETFで規定されています。一方PQは、人間の知覚特性に基づいた量子化方式を採用し、10,000 cd/m2までの絶対輝度を扱いSMPTE ST2084 EOTFで規定されています。HLGは、SDRと互換性が保たれているので放送に、PQは、Blu-ray diskやStreamingに適用されることが多いようです。
HLGとPQの比較
参考文献7.「1表 HLG方式のOETFとPQ方式のEOTF」に変換式が、「4図 HLG方式とPQ方式の伝達関数の比較」にグラフがそれぞれ記載されています。1表から引用した式1に示す変換式をExcelに入力してグラフを描いてみます。HLGは、OETFで規定され、PQは、EOTFで規定されているので参考文献7.と同様にPQを反転させHLGとPQを比較してみます。
式1 HLG OETF変換式、PQ EOTF変換式
式1から作成したグラフを図2に示します。HLGが赤実線、PQが緑実線で点線は変化率を表し、X軸が小さい暗い輝度領域を参照するとHLGがなだらかでPQは急に変化しています。PQは、暗い部分に多くの階調を割り当て、明るい部分の階調を圧縮していることが分かります。これは、人間の視覚輝度感度が暗い部分は、鋭く明るい部分は、鈍いという特性に合わせてPQ EOTFが設計されていることを表しています。視覚的に比較できるよう、グラフ下部にHLGとPQのGray scaleを表示した所、同様な特性が見えていることが分かります。また、赤点線のHLG変化率を参照するとX=0.833(1/12)付近に不連続点があることが分かり、式1 HLG OETF変換式が変わる境界を表しています。変換式が複数規定されているので、Hybrid(混成)と名付けられたと考えられます。
図2 HLG(OETF)、PQ(EOTF Inverse)比較
LCDとOLEDの違い
LCDは、パネルにバックライトを使用しているので高い輝度出力が得意で、比較的明るい部屋でも使用可能です。一方OLEDは、自発光パネルで高い輝度出力が苦手ですが、暗い色の再生が得意です。TVは、LCDとOLEDが採用されSmart phoneは、LCDよりもOLED採用が増えています。OLEDは、固定映像を長時間表示するとその跡が残る焼き付きが発生しますが、焼き付き防止機能を備えている機種もありますのでマニュアルや機器本体のメニューを確認してみると良いでしょう。
HDR試験機材
HDR試験は、パネルに表示される明るさ、暗さ、色純度を定量的に測定するため、輝度計と呼ばれる光学測定器を使用します。例えば、図3に示すKonika minolta CS-2000A、CA-410(図示せず)、図4に示すKlein K10-A等が挙げられます。高級機をターゲットとしたHDR認証規格ほど、厳しい基準値が設けられており高性能な映像表示が求められます。
図3 Konika minolta CS-2000A
図4 Klein K10-A
HDR認証規格
HDR機器向けに認証試験が策定され現在、表5に示すHDR認証規格が運用されています。大きくTV、Blu-ray player等の据え置き型機器とTablet、Smart phone等の可搬型機器に分けられます。HDR認証規格を取得しなくてもAV機器の製造、販売に制限はありませんが認証取得機器は、各種HDR認証規格の厳しい基準をクリアーした証明となり、エンドユーザーがAV機器を選ぶ際の参考になります。アリオン株式会社では、表5に示すUltra HD PremiumからDisplayHDRまでの認証試験機関資格(以下、ATCと記す。)を取得しており日本国内で認証試験が実施可能です。
HDR認証規格 | 認証策定団体 | 代表的な認証機器 | 対象層 | アリオンATC |
Ultra HD Premium | UHD Alliance | TV, BD player, PC, STB | 高級機 | 〇 |
Mobile HDR Premium | UHD Alliance | Tablet, Smart phone | 高級機 | 〇 |
IMAX Enhanced | Xperi, DTS, IMAX | TV(≧65inch), AVR | 高級機 | 〇 |
HDR10+ | HDR10+ LLC | TV, BD player, AVR, OTT | 中高級機 | 〇 |
HDR10+ Mobile | HDR10+ LLC | Tablet, Smart phone | 中高級機 | 〇 |
DisplayHDR | VESA | PC Display | 中高級機 | 〇 |
Dolby Vision | Dolby Laboratories | TV | 高級機 | × |
HDR認証規格を取得すると製品やカタログに表示可能なロゴマークを図6に示します。AV機器を購入する際、家電量販店、カタログを見る時の参考にして頂ければと思います。
図6 HDR認証規格ロゴマーク
パソコン、周辺機器の認証試験
アリオン株式会社では、通信機器、AV機器、IT機器のさまざまな有線、無線インターフェースのロゴ認証試験、接続互換性試験、フィールドクレーム解析等、長年にわたり実績を積み重ねノウハウを蓄積しています。また、お客様のご要望に応じたカスタムメイド解析評価等も承っています。通信機器、AV機器、IT機器に関するご相談、お困りごとがありましたらお問い合わせ頂ければと思います。
最後に
家電量販店のAV機器売り場に行くと、4K HDRを記す広告が普通に見られるようになりました。また、Smart phoneも高画質とHDRを特徴に掲げる機種があり、ひと昔前よりもHDR機器の選択肢が増え、購入時にどの機種を選ぶか迷うことも多いのではと思います。4K HDRを謳った機種が必ず表5の認証規格を取得しているとは限らず、図6のロゴマークが機器本体かカタログに表示されているか否かで認証規格取得有無の判断が可能です。
One comment
Pingback: 100インチ超4K HDR、HDR10+ Projector Device認証試験始動 – 認証試験.com