近年、100円ショップでUSB機器を見掛けるようになり、利用されている方も多いと思います。同じUSB機器が外装Packageのみを変えて異なる100円ショップ系列店で販売されているケースもあり、量産効果が働き100円での販売が可能になったと考えられます。今回は、100円ショップで入手可能なUSB機器を調査してみます。
100円ショップで販売されているUSB機器
100円ショップで見掛けるUSB機器は、開発予算が限られているためかCable、Adapterが多いですが、100円ではないもののAC充電器やMobile chargerも販売されています。今回は、100円で入手可能な下記USB機器2製品を題材にUSB認証的、MCPCモバイル充電安全認証的に見るとどうなるか検証してみます。
- 2台同時充電ケーブル (USB Cable)
- USB Twin Charger (USB Adapter)
2台同時充電ケーブル (USB Cable)
図1に示す通り充電器側がType-A、被充電器側がmicro-BとType-Cの二股USB Cableでスマホを充電する時に利用している方も多いと思います。このような形状は、アルファベットのYに似ているのでY字Cableと呼ばれUSB認証、MCPCモバイル充電安全認証は取得できませんが製造販売に制限はありません。本製品は、Type-A to micro-BとType-A to Type-Cの組み合わせで被充電機器を2台同時に充電可能ですが接続する充電器の定格電流は、変わらないので被充電器側のmicro-BとType-C合計で定格電流を超えない使用方法が推奨されます。micro-Bは、携帯機器との接続を中心に普及してきましたが、Type-Cが普及し始めてから市場シェアを2分しており、本製品のようなUSB Cableが登場したと考えられます。なお、本製品はレガシーコネクターと呼ばれるType-A、mciro-Bで構成されておりPower Deliveryには対応していません。
図1 2台同時充電ケーブル (USB Cable)
簡単な導通試験で接続がどうなっているか見てみましょう。表2 2台同時充電ケーブル導通試験結果を見るとCableなので当然ですが、Type-A、micro-B、Type-Cの間でV+、GNDがそれぞれ接続されています。Type-A to Type-C側は、CC1とV+の間に抵抗55.7kΩが実装されています。充電器側が、レガシーコネクターと呼ばれるType-A且つ被充電器側がType-Cの場合、CC1とV+の間に抵抗56kΩの実装がUSB規格で規定されておりType-A to Type-C側は、USB Type-C Cable and Connector規格に準拠していると言えます。なお、表2に示す「-」は導通なし、「0Ω」は導通ありという意味で表記しています。
micro-B (Plug) | Type-C (Plug) | ||||||||||
_V+_ | _D-_ | _D+_ | GND | _V+_ | _D-_ | _D+_ | GND | _CC1_ | _CC2_ | ||
_Type-A_ (Plug) |
_V+_ | 0Ω | – | – | – | 0Ω | – | – | – | 55.7KΩ | – |
_D-_ | – | – | – | – | – | – | – | – | – | – | |
_D+_ | – | – | – | – | – | – | – | – | – | – | |
GND | – | – | – | 0Ω | – | – | – | 0Ω | – | – |
USB Twin Charger (USB Adapter)
図3に示す通りChargerと名前が付いてるので充電器かと思いましたがAdapterでした。充電器側が、Type-A (Plug)、被充電器側がType-A (Receptacle) x 2の二股USB AdapterでUSB充電Portを2個に増やせる製品です。2台同時充電ケーブル同様、形状がアルファベットのYに似ているのでY字Adaperと呼ばれUSB認証、MCPCモバイル充電安全認証は取得できませんが製造販売に制限はありません。USB充電Portが1個から2個に増えますが本製品を接続する充電器の定格電流は、変わらないので2 Port合計で定格電流を超えない使用方法が推奨されます。なお、本製品はレガシーコネクターと呼ばれるType-Aで構成されておりPower Deliveryには対応していません。
図3 USB Twin Charger (USB Adapter)
簡単な導通試験で接続がどうなっているか見てみましょう。表4 USB Twin Charger導通試験結果を見るとAdapterなので当然ですが、Type-A (Plug) to Twin Charger表示面右側Type-A_R (Receptacle)、同左側Type-A_L (Receptacle)間で、V+、GNDがそれぞれ接続されています。しかし、V+、GND、D-、D+間に抵抗数十KΩが見えており端子間に抵抗が実装されていそうです。なお、表4に示す「-」は導通なし、「0Ω」は導通ありという意味で表記しています。
Type-A_L (Receptacle) | Type-A_R (Receptacle) | ||||||||
_V+_ | _D-_ | _D+_ | GND | _V+_ | _D-_ | _D+_ | GND | ||
_Type-A_ (Plug) |
_V+_ | 0Ω | 42.6KΩ | 48.2kΩ | 35.5KΩ | 0Ω | 42.6KΩ | 48.2KΩ | 35.5KΩ |
_D-_ | – | – | – | – | – | – | – | – | |
_D+_ | – | – | – | – | – | – | – | – | |
GND | 35.5KΩ | 35.5KΩ | 51.6KΩ | 0Ω | 35.5KΩ | 35.5KΩ | 51.6KΩ | 0Ω |
本製品の構成をもう少し詳しく調べるため、Type-A (Plug)側のV+、GND間に電圧5Vを印加し、Type-A_R (Receptacle)とType-A_L (Receptacle)端子電圧を測定しました。表4 USB Twin Charger端子電圧試験結果を見ると、信号端子にそれぞれD-≒1.99V、D+≒2.73Vが現れていることが判明しました。充電器側のType-A (Plug) D-/D+とは分離されており、本来充電器が持つD-/D+電圧をAdapterから被充電器側に伝える役割を果たしていると考えられます。
Type-A_L (Receptacle) | Type-A_R (Receptacle) | |||||||
_V+_ | _D-_ | _D+_ | GND | _V+_ | _D-_ | _D+_ | GND | |
_Type-A (Plug), V+=5V_ | 5V | 1.991V | 2.733V | 0V | 5V | 1.987V | 2.726V | 0V |
D-/D+電圧を用いて充電器が持つ仕様を伝える規格は、USB IF協会が策定したBattery Charge v1.2 (以下、BC1.2と記す。)があり、充電器側がD-とD+を抵抗 (Max 200Ω)で接続して被充電器側にBC1.2に準拠していることを伝えます。しかし、表4 USB Twin Charger 端子電圧試験結果D-/D+の差電圧を見ると、0.7V以上あるのでBC1.2とは異なる仕様を意味するようです。 近年、充電器メーカー間の充電時間短縮化競争が激しく、一部の充電器メーカーがD-/D+電圧を検出する独自仕様を開発しています。このような独自仕様を持つ充電器は、対応可能な被充電器つまり自社製品の組み合わせで使用する場合に限り急速充電モードに入る仕組みのようです。
まとめ
表5 100円ショップのUSB/MCPC機器認証取得の可能性をまとめました。今回調査した製品は、100円ショップで売られているから、安価だから認証取得できない訳ではなくY字形状を持つUSB Cable/Adapterは、認められていないという単純な理由です。しかし、No.1 2台同時充電ケーブルType-C側のCC1とV+間は、抵抗55.7KΩが実装してありUSB Type-C Cable and Connector規格に準拠していることが分かりました。また、No.2 USB Twin Chargerは、D-/D+電圧を用いた独自仕様を持つ一部の充電器メーカーに対応させていることが分かりました。
No. | USB機器 | USB認証 | MCPC認証 |
1 | 2台同時充電ケーブル (USB Cable) | × | × |
2 | USB Twin Charger (USB Adapter) | × | × |
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最後に
1996年にUSB 1.0規格が登場して以来、高速化、高電力供給化が進み私達の身の回りの情報通信機器や家電製品等、さまざまな所でUSBインターフェースを見掛けるようになりました。USBは、IEEE1394と覇権争いを繰り返した時期もありましたが、伝送速度の更なる高速化とライセンス料フリーを武器に生き残り、その他の競合する規格も時代の役割を終えて市場から消えていきました。今回、題材に使用したUSB Y字Cable/Adapterは、認証取得出来ないものの製造販売に制限がなく市場には、USB Y字Cable/Adapter以外にもユニークなUSB機器が数多く出回っています。規格を管理するUSB IF協会は、これらの非認証品に関して特にコメントは出していないようですが、製品開発を市場と開発メーカーに任せ参入障壁を低くしたため認証品、非認証品問わずUSBが広く普及してきたと考えられ、今後もUSBが覇権を握る状況は続くと思われます。