インピーダンスはなぜ50Ωなのか

概要

高速信号を扱う技術者は、測定器、信号発生器、ケーブル、アダプター、バイアスティー等、様々な機材と部品を日々使っていることと思います。そんな中で『50Ω』という数字を頻繁に目にしていますが、一体なぜ50Ωなのか、疑問に思ったことはありませんか? そこで、30Ω、40Ω、60Ωでもなければ全て50Ωで統一されている理由について調査してみました。

         

インピーダンスの種類

インピーダンスとは、簡単にいうと交流に対する抵抗のようなものです。実際には、実数軸と虚数軸上の複素数で表されますが、長くなるためここでは触れないことにします。では、身近にあるインピーダンスの種類を見てみましょう。自由空間(空気中)は377Ω、TVアンテナケーブルは75Ω、高速オシロースコープと信号発生器及びSMAケーブルは50Ω、スピーカーは8Ωと色々な種類が存在しています。

自由空間のインピーダンス:377Ωは、特別な意味を持ちます。信号はケーブルや基板伝送線路の中を伝わりますが、導体が無い空気中でも信号は伝送します。これが電磁波(電波)で、空気中に電界と磁界を交互に形成しながら伝搬していきます。では、自由空間のインピーダンスを計算してみましょう。

Zo=sqrt(μo/εo)      μo:真空中の透磁率, εo:真空中の誘電率

真空中の透磁率:μo=1.256637×10-6H/m、真空中の誘電率:εo=8.854187×10-12F/mとした場合、Zo=376.73Ωになりました。

インピーダンス50Ωの起源

一方、50Ωは自由空間:377Ωのようになにか特別な意味があるのでしょうか。50Ωの理由を探るには、同軸ケーブルの歴史を遡る必要があります。1930年代に無線機器やレーダー開発が進み、高速信号を効率良く伝送するにはどのような同軸ケーブルが良いか検討されました。当時、使用可能なケーブルの太さは決まっており、外部導体寸法は変えられず、減衰最小にできる内部導体寸法を調査したところ、50Ωが最適値でした。では、同軸ケーブルのインピーダンスを計算してみましょう。

Zo=138/sqrt(εr)*log10(D/d)    εr:比誘電率, D:誘電体外径, d:内部導体外径

比誘電率:εr=1(空気)、D/d=3.591(損失最低)とした場合、Zo=76.62Ωになりました。誘電体が空気のケーブルは取りまわしが悪く、次に損失が少ない誘電体にポリエチレンを選択してケーブルを作成しました。比誘電率:εr=2.2(ポリエチレン)、D/d=3.591(損失最低)とした場合、Zo=51.66Ωになりました。これが50Ωの起源といわれています。

ケーブルインピーダンス50Ωの謎

測定器の入出力インピーダンスは、実際に入出力端子から50Ωが見えるので50Ωだというのは納得できますが、ではケーブルが50Ωというのは何を示しているのでしょうか。マルチメーターでケーブルの芯線と外部導体の抵抗を測定しても50Ωは見えずOpenのままです。ここで最も多いのは以下式を引用し、特性インピーダンスが50Ωだという答えです。

Zo=sqrt(L/C)

         

では、50Ωケーブルをマルチメーターで測定し50Ωを得る方法はあるでしょうか。下図のような無限長の50Ωケーブルがあるとします。無限長ケーブルの芯線と外部導体にマルチメーターを接続すると、下図の左側から順に充電電流が流れ50Ωを示します。ケーブルが有限長の場合は非常に短い時間で充電が完了するのでマルチメーターが50Ωを示すことはありません。ここではケーブルが無限長なのでこの充電電流が永久に流れる事になります。つまり、マルチメーターが50Ωを示し続けるでしょう。但し、無限長50Ωケーブルは入手できないので、残念ながら実際に検証することはできません。

終わりに

『インピーダンスはなぜ、50Ωなのでしょうか?』と、隣にいるあなたの上司に同じ質問をしたら、どのような答えが返ってくるでしょうか。普段気にせず接しているインピーダンス:50Ωは意味があり、最適値を過去のエンジニアが導いたのです。さて、1930年代、無線機器とレーダー開発と聞いて何を思い浮かべるでしょうか。一つは当時の軍事産業から発明された技術と考えられますが、民間企業によってその技術が平和利用され、高機能且つ高性能な製品が生まれています。私たちの身の回りに普及している技術は、元を辿れば軍事産業から転用されたものが多いことが分かります。軍事産業による技術開発は、実戦では使われることなく平和利用のみに応用されるようにお願いしたいですね。

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