「Bluetooth」と呼ばれる短距離無線接続技術は1998年4月に発表され、翌1999年7月に仕様が一般公開された。その後仕様が更新され、2010年6月にはこれまでのBluetooth(以下、BR/EDR Bluetoothと記す)に加えて、少量のデータ通信用途に向けた低消費電力モード(以下、BLE Bluetoothと記す)が追加された「コア仕様v4.0(以下、コア仕様は省略)」が制定された。その後も機能追加が続けられ仕様はv4.1→v4.2→v5.0→v5.1と更新されて現在に至っている。
BR/EDR Bluetoothの無線部は2.402GHzから2.480GHzまで、1MHzステップの79チャンネルを用いるFH(Frequency Hopping: 周波数ホッピング)型のSS(Spectrum Spread:スペクトラム拡散)方式が採用されている。そしてGFSK、DQPSK、8PSKと3種類の一次変調モードによって伝送速度は1Mbps、2Mbps, 3Mbpsを実現している。
一方、BLE Bluetoothの無線部は2.402GHzから2.480GHzまで、2MHzステップの40チャンネルを切り替え、単一搬送波でデータ通信する方式を採用している。変調方式はGFSK方式で、伝送速度は1Mbpsを基本として、v5.0以降はオプション機能ながら2Mbpsの送受信モードが追加された。BR/EDRでは多値変調による伝送速度の高速化を実現したが、BLEでは同じGFSK方式で変調速度を2倍にして2Mbpsの伝送速度を実現している。
項目 | BR/EDR Bluetooth主要緒元 | BLE Bluetooth主要緒元 |
使用周波数 | 2.402MHz~2.480MHz(1MHz間隔、79チャンネル) | 2.402MHz~2.480MHz(2MHz間隔40チャンネル) |
変調方式 | 周波数ホッピングスペクトラム拡散(GFSK / DQPSK / 8PSK) | GFSK |
伝送速度 | 1Mbps, 2Mbps, 3Mbps | 1Mbps |
空中線電力 | Class 1: 100mW(Max)、 Class 2: 4mW~0.25mW、 Class 3: : 1mW(Max) |
v4.2まで: 10mW(Max) v5.0以降: ER/EDRの区分に加えてClass 1.5: 10mW(Max) |
個体識別符号 | 48ビット(MACアドレスを使用) | 同左 |
表1:Bluetoothの主要緒元
Bluetoothでは他の無線規格のように下位層の仕様化はもちろんのこと、アプリケーション階層のすぐ下のアプリケーションインタフェース階層まで、主な用途に対応して定められている。Bluetoothではこの階層をプロファイル(Profile)と呼ぶ。
身近に使われているプロファイルの例としては、 オーディオ機器や、スマートフォンとカーナビゲーションシステム、あるいは車載オーディオ機器などとBluetoothで接続して音楽を送信する「A2DP」プロファイル、あるいは運転中にハンドルから手を離すことなく通話できる「HFP」プロファイルがある。
Bluetooth機器は「BR/EDRサポート機器間あるいはBLEサポート機器間」で、「同じプロファイルの送受ペア機能がサポートされている」という条件が満たされると機器間相互でのデータ通信が可能となる。
Bluetoothのロゴ認証の必要性
Bluetooth機器を販売するにはBluetooth SIGから技術利用ライセンスを取得する必要がある。Bluetooth Membership Agreementではライセンス条件を次のように規定している。
① Bluetooth製品を販売する企業はBluetooth SIGメンバーへ加入する。
② Bluetooth製品はBluetooth Qualification Programを履行する。
メンバー種別には入会金および年会費無料のAdopterメンバーと、年会費が必要なAssociateメンバーとがあるが、Bluetooth製品のライセンス取得のためには無料のAdopterへの加入で問題ない。ただし、通常ロゴ認証と呼ばれる上記②のBluetooth Qualification Programに際してBluetooth SIGへ支払うDeclaration Fee(いわゆる登録費)にはAdopterメンバー:$8,000に対してAssociateメンバー:$4,000という違いがある。
ロゴ認証を受験するBluetooth製品は、一般的に認証登録済のBluetooth ICあるいはモジュールとホストスタックと呼ばれる上位のプロトコル・プロファイルスタックが搭載されている。これら認証登録済半製品を実装した製品では、既に認証されたプロトコル階層の試験が免除されて大幅な試験コスト削減というメリットがあるためである。
一般的な認証済半製品を実装したBluetooth製品では、下図に示すRF(BR/EDR Bluetooth)あるいはRF PHY (BLE Bluetooth)およびProfile階層が試験対象となる。
既に説明したように、Bluetooth製品を販売する企業はBluetooth SIGへのメンバー加入が必要であり、それが完了するとその企業の認証担当者はBluetooth SIGのメンバーサイトへのログインアカウントが無償で取得できる。ロゴ認証に伴って必要となるDeclaration Feeの支払手続と製品登録確定操作は、販売企業の認証担当者のログインによるウェブ操作が必要となる。具体的な認証フローは次の通りである。
BQTFはBluetooth製品を販売する企業からの認証依頼を受けて、最初に製品の機能あるいは実装された認証済半製品のQD IDを精査してTest Planを作成する。
次にTest Planに基づいてRF / RF PHY試験およびProfile試験を実施する。Failが発生すると依頼企業に試験ログとその解析結果を知らせてテストサンプルの改修を依頼する。改修サンプルでFail項目の再試験を実施して全項目がPassになるまで繰り返し、全試験対象項目がPassになった時点で認証登録に必須のテストレポートを発行する。
続いてBQC(Bluetooth Qualification Consultant)による検証作業を実施し、認証条件を満足した登録確定操作のためのドキュメント一式と、登録確定操作説明書を認証依頼企業に提供する。
その登録確定操作用ドキュメント一式を用いて右図の赤★で示す5~10分程度のウェブ操作を認証依頼企業の認証担当者が実施すると、すべての認証作業が完了する。
ロゴ認証済製品の扱いおよび派生製品の扱い
これまで説明した手順によって登録が完了した製品へのBluetoothロゴの表示は強制ではなく、販売企業の判断に任せられている。梱包箱や取扱い説明書へのロゴ表示も同様である。
最初の製品(モデル)は当然発売前の認証登録に含まれる。しかし、最初の認証登録時点で商品企画が無いものの、それをベースにしたファミリー製品が展開されることが一般的である。Bluetoothではこれを派生製品(derivative)と呼び、次の条件が満たされればベースモデルの既存登録に無料でモデル名を追加することができる。
① ベースモデルの登録サイトで表示される各階層の機能と同一のモデルが対象
② 仕様のバージョンがベースモデルと一致していること
派生製品のモデル名は追加操作によって登録サイトのProduct Listに反映され、これだけでその派生製品の認証手続は完了する。
各国の規格認証とロゴ認証
これまでBluetooth製品のロゴ認証について説明したが、ロゴ認証手続は世界的に有効なため複数の国・地域に販売する場合でも1回実施すればよい。しかし、Bluetooth製品を販売するためには販売する国あるいは地域(EU圏など)毎に定められた無線機器認証も取得する必要がある。
例えば日本では製造者は電波法および関連法規の規定によって「技術適号証明」あるいは「工事設計認証」を取得して製品ラベルに証明番号または認証番号を表示しなければならない。
米国ではFCCの「CFR 47 Part 15, Sub Part B,C」の規定に従った試験の実施と、FCCサイトへの登録手続、そして製品ラベルへのFCC IDと呼ばれる登録IDの表示が必須である。さらにEU各国ではR&TTE Directiveの規定により、「EN 300 328」「EN300 440」「EN 301 489」「EN 60950」「EN5037」に従って試験を実施、適合性確認を行って製品にCEマーキングを表示する義務がある。
まとめ
これまで説明したように、Bluetooth製品を販売する前にBluetooth SIGからの技術使用ライセンスを取得するためのロゴ認証と、販売する国あるいは地域で規定された無線機器認証を取得する必要がある。
複数の国・地域で販売する予定のBluetooth搭載機器は、早めに認証機関(BQTF)と相談して製品化スケジュール中に認証取得に要するリードタイムを組み込んで置くことが望ましい。
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