USB Type-Cコネクタを採用する製品ではデータ通信に対応しない製品であってもUSB認証を取得することができます。その中でも今回はUSBコネクタから電力を受け取り内蔵バッテリを充電する一方でデータ通信はしないという仕様の製品について考えてみたいと思います。最近はUSBを充電にのみ使い、データ通信はBluetoothやWi-Fiで行う製品が増えていますが、このような製品はUSB認証試験ではPower Sinking Device(PSD)という分類になります。
3段階のType-C Current
USB Type-C仕様書ではType-C Currentという名称の電力規格が定義されています。以下の3段階があります。
名称 | 電圧 | 最大電流 |
Type-C Current@3A | 5V | 3A |
Type-C Current@1.5A | 5V | 1.5A |
Default USB Current | 5V | USB4/3.2/2.0の各規格に従う 例) USB 2.0の場合は500mA |
上記の3段階はType-CコネクタのConfiguration Channel(CC)という信号の電圧により判別することができます。PSDを含むSink機器はCC信号の電圧に応じて電流値を制御しなければなりません。例えばType-C Current@1.5Aの設定になっているにもかかわらず3Aの電流を引っ張った場合は規格違反となります。
最大500mAのPSDではCC信号の電圧判別は不要か
USB規格に詳しい方は「最大500mAの場合はどうなるのか?」という疑問を持たれる方もいるかもしれません。今回はこれについて少し考えてみたいと思います。
この場合、Type-C Current@3A、Type-C Current@1.5A、Default USB Currentのいずれの設定であっても引っ張る電流は最大500mAのため、CC信号の電圧による判別はしなくてよさそうです。
CC信号の電圧判別が不要になるとCC信号にコントローラを接続せずに済むため設計がシンプルになります。
* 製品がUSBデータ通信に対応している場合は例えばUSB 2.0のエニュメレーション中は最大100mAまでの仕様となっているので今回の議論の対象外です。
最大500mAのPSDの認証試験
PSDの認証試験では以下のような試験項目の実施が必要です。
・Type-C Functional Test
・Type-C Interoperability Test
・USB PD Test (USB PDに対応している場合のみ)
・Inrush Current Test
・BC1.2 Implemented Check
・BC1.2 Portable Device Test(USB BC1.2に対応している場合のみ)
最大500mAのPSDの場合はUSB PDやUSB BC1.2には対応しませんのでそれらの試験は実施不要です。従って今回のケースでは以下の4項目の実施が必要です。
・Type-C Functional Test
・Type-C Interoperability Test
・Inrush Current Test
・BC1.2 Implemented Check
この中で注意が必要な試験がType-C Functional Testです。残りの3項目については特にリスクになるところはないと思われるため今回は割愛します。
最大500mAのPSDのType-C Functional Test
以下のようなサンプルDUT(Device Under Test)を作成してType-C Functional Testを実施しました。
CC1とCC2には仕様通り5.1kΩのプルダウン抵抗を接続しています。
VbusとGNDの間には5Vが印加された場合に500mAに近い電流が流れるよう11Ωの抵抗を接続しました。実際のPSD製品ではバッテリの充電回路が接続されます。
CC1/CC2/Vbus/GND以外の信号は全て非接続です。
Teledyne LeCroy社のM310PとEllisys社のEX350での試験結果は以下の通りです。Type-C Functional Testは多数の試験項目からなっており、DUTの仕様により実施される項目が変わります。
試験項目 | M310P | EX350 |
TD.4.1.1 Initial Voltage | Pass | Pass |
TD.4.3.1 Sink Connect Source | Pass | |
TD.4.3.2 Sink Connect DRP | Pass | Pass |
TD.4.3.3 Sink Connect Try.SRC DRP | Pass | Pass |
TD.4.3.4 Sink Connect Try.SNK DRP | Pass | Pass |
TD.4.3.6 Sink Connect Accessories | Pass | Pass |
TD.4.10.1 Sink Power Sub-States | Pass | Pass |
TD.4.10.2 Sink Power Precedence | Pass | Pass |
TD.4.11.2 Sink Dead Battery | Pass | Pass |
TD.4.13.5 Cable EnterUSB and Data Reset | N/A | Pass |
EX350のTD.4.3.1のみFailとなりました。テストログを確認したところ「PUT must sink no more than 100 mA (actual was 424 mA)」となっています。
100mAを超えているのでFailとのことですが、この100mAはUSB 2.0のエニュメレーション中の最大消費電流の仕様です。今回はPSDを模擬したサンプルのためUSB 2.0のエニュメレーション時の電流は適用されないはずです。この点についてEllisys社へ問い合わせをしております。回答があり次第、本ページを更新したいと思います。
* [2022/1/31追記] 最新の3.1.8025バージョンで再試験したところPassになりました。
終わりに
今回は実験として最大500mAのPSDを考えてみました。USB PDが普及している今となっては最大2.5W(5V×500mA)という充電速度は決して速くはありません。しかし小容量のバッテリの製品など2.5Wで十分な用途であれば設計のシンプルさも考慮すると、このような設計も検討に値するのではないかと思います。
注) 2021年7月30日現在のType-C Functional Testをもとにしています。将来、試験仕様が変更される可能性があります。