USB機器におけるリタイマの導入とテストスペック

USBのデータ伝送速度が向上するにつれて、信号の波形品質を確保することが難しくなってきています。

特にUSB機器の内部のUSBコントローラからUSBコネクタまでの距離が長い場合、USBコネクタ端での波形品質が悪くなってしまい正常にUSB通信ができなくなることがあります。

このような場合に波形品質を確保するためにUSBコネクタの近くにリタイマと呼ばれる波形を整形する半導体ICを挿入することがあります。

速くて長いケーブルを実現するには

一方、ケーブルに目を向けてみると、データ伝送速度の向上に反比例してその速度が保証されるケーブル長が短くなってきています。

USB Type-Cの仕様書では伝送速度ごとにそれに対応するケーブルの最大長が定義されています。

データ伝送速度 最大ケーブル長
High-Speed以下 4m
SuperSpeed Gen1 2m
SuperSpeed Gen2 1m

この調子で伝送速度が向上していくとケーブル長がさらに短くなっていき使い勝手が悪くなってしまうことが予想されます。ユーザとしてはケーブルはある程度の長さは欲しいものです。

ではこの表に載っている長さを超えるケーブルは実現できないのでしょうか? それを可能にするのがリタイマです。

リタイマを内蔵したケーブルのことをアクティブケーブルと呼び、USBの業界でも近年、高速な伝送速度を実現しつつ十分なケーブル長を確保するためのソリューションとして議論が盛んになってきています。

USB機器へのリタイマの導入

USBの伝送路にリタイマを挿入するとジッタ成分等が大幅に小さくなり波形品質が向上する一方、伝送遅延が発生します。

これまでもUSB機器でリタイマが使用されることはあったかと思われますが、それによる影響の評価はあくまでも機器を設計するベンダに任されていた面があります。

USB-IFの対応

USBが高速化され、USB機器へリタイマを搭載する要求が高まることが考えられる中で近年、USB-IFからリタイマに関連する仕様が相次いでリリースされています。USB-IFの会員企業から団体として何らかの指針を出す方がよいのではという声が上がったのかもしれません。

まずUSB3.1に対するECN(Engineering Change Notice)の形でリリースされ、USB3.2では仕様書に統合されました(*)。

リリースされている仕様はリタイマの導入によるSuperSpeed信号の伝送遅延に対するものとなっています。

以下の例はホスト機器とケーブルにリタイマが内蔵されている状況を表したイメージです。

この例の場合、ホスト機器から接続相手に送信したパケットの応答(①)と接続相手から受け取ったパケットに対する応答(②)の両方にリタイマによる遅延が発生することになります。応答時間を測定するポイントはホスト機器のUSBコネクタです。

①の時間はPENDING_HP_TIMERと呼ばれるパラメータで10usとなっています。相手にパケットを送信してから応答を受信するまで少なくとも10usは待たなければなりません。変更前の仕様は3usでしたので、リタイマの影響を考慮してタイムアウトの時間が延長されています。

②の時間はtDHPResponseと呼ばれるパラメータでSuperSpeed Gen1の場合は最大2540ns、SuperSpeed Gen2の場合は最大1610nsとなっています。リタイマを入れた状態でも所定の時間内に応答を返さないといけません。この応答時間を超えてしまうと接続相手からは応答がないとみなされタイムアウト処理をされてしまう可能性があります。

テストスペックの変更

上の①は既にSuperSpeed LinkLayer Test Specificationに実装されており、テスト機器にも実装済みとなっています。古いUSBコントローラの場合は新しいタイムアウトの仕様には対応していないため関連する項目は基本的にFailとなります。

②についてはテストパラメータとしては実装済みですが、現時点ではtDHPResponseの時間そのものを確認する項目はありません。様々な試験項目を実施する中で間接的に確認されていると考えられます。

以上のテストスペックの変更はケーブル以外の製品に対するものになります。

リタイマを内蔵しているアクティブケーブルについては現在、テストスペックを策定中となっています。

おわりに

リタイマを考慮した新しい仕様に対応していないUSB機器とリタイマ入りのUSB機器・ケーブルを組み合わせた場合、リンクトレーニング中にタイムアウトが発生してしまいSuperSpeedでは動作しない可能性があります。

この場合、通常ではUSB2.0 High-Speedで接続が成立するのでUSB機器が全く動作しないということにはなりませんが、伝送速度が大幅に遅くなるためユーザの満足度は下がるでしょう。

そのため今後開発・販売される製品については新しい仕様に対応されることが期待されます。

(*) USB3.2では独立した章としてRepeaterの項が設けられています。RepeaterはRetimerとRedriverの総称となっています。

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