・コンプライアンスモードとは
USB 3.2のトランスミッタ電気試験ではコンプライアンスモードと呼ばれるモード(信号パターン)に対応していることが要求されます。各試験項目毎に測定で使用するモードが定義されておりそのモードに設定できない場合は測定不可となってしまい実質的には不合格と同等の扱いになります。
ほとんどのDUTは問題なくコンプライアンスモードで動作しますが、時折コンプライアンスモードが無効になっているDUTが見受けられます。また試験前にお客様から「事前にコンプライアンスモードが正しく動作しているか確認することは可能か?」との問い合わせを受けることがあります。
認証試験で使用する機材は比較的高価なため全てをそろえることは難しいかもしれません。そこで今回は手近なものでコンプライアンスモードの動作が確認できないか実験を行いました。
・コンプライアンスモードに移行する条件
USB 3.2仕様書に以下のような状態遷移図が記載されています。赤矢印の通りに経由し最終的にコンプライアンスモードに移行します。
このコンプライアンスモードに移行するための条件をまとめると以下のようになります。
条件1: SS.InactiveからRx.Detectへの遷移条件 | DUTの電源が入っていること。DUTがPeripheralの場合はUSBコネクタからVBUSが供給されていること |
条件2: Rx.DetectからPollingへの遷移条件 | DUTのTxのライン上に終端(50Ω)があること |
条件3: PollingからCompliance Modeへの遷移条件 | 接続相手がDUTが送信するLFPS信号に応答せずタイムアウトになること |
このうち1と2の条件はDUTの接続相手が一般のUSB機器であっても測定機材であっても同じです。
条件1と2を満たしたうえでさらに条件3を満たすとDUTはコンプライアンスモードへ遷移します。なお測定機材はDUTが送信するLFPS信号には応答しませんので条件3を満たしています。
一般のUSB機器はLFPS信号に応答しますので条件3は満たしません。この場合は上の状態遷移図のPollingからU0への遷移が発生し通常のUSB SuperSpeedでの通信が行われます。
・認証試験の機材で確認する
まずは参考として認証試験で使用している機材を用いて測定を実施します。
テストフィクスチャ周辺は以下の通りになります。DUTとしてUSBメモリを使用しました。DUTがPeripheralのためVBUSの供給が必要です。SSTX+/-をオシロスコープに接続し、オシロスコープ側で50Ωの終端を入れています。
このとき測定される波形は以下のようになります。コンプライアンスモードは複数のモードがありますが、コンプライアンスモードに移行するとまずCP0と呼ばれる状態になります。CP0はUSB 3.2仕様書によると”pseudo-random data pattern”となっており、確かに波形をみるとランダムになっている感じがします。
正式な認証試験ではSSTX+/-の両方を測定しますが、コンプライアンスモードが動作することの確認だけであれば以下の通りSSTX+/-のいずれか片方だけでも可能です。
測定波形は以下のようになります。先ほどの波形の片方だけが測定されます。
ここで試しに2GHzの帯域制限を適用した状態で測定してみました。10GHzを超えるような帯域のオシロは用意できないが2GHzであれば用意できる場合もあるかと思います。高周波成分はもちろん測定されませんがランダムな波形の雰囲気は確認できるかと思います。
・手近な材料で確認してみる
認証試験で使用するテストフィクスチャはUSB-IFのeストアから購入可能です。現在はレガシーコネクタ用のUSB 3.2電気試験用フィクスチャは$1800、Type-Cコネクタ用は$3000になります(いずれも会員価格)。これらのフィクスチャがあればコンプライアンスモードの確認はもちろん可能ですが、もう少し安くできないか実験してみます。
コンプライアンスモードの確認用として以下の青部分で示されているテストフィクスチャを作成しました。黒線はGNDです。
機能は以下の3つです。
- DUTを接続できること
- VBUSに5V電源を接続できること
- DUTのSSTX+がSMAコネクタに変換されること
オンラインのパーツショップや秋葉原で購入できる部品で作成したフィクスチャが以下になります。実費で400円程度です。
測定の様子は以下の通りです。
VBUSには定電圧源やDC5Vが出力可能なACアダプタを用いることが可能ですが、ここではオシロスコープのUSB端子のVBUSをフィクスチャのVBUSに接続しています。
以下のような波形が測定できました。それなりの波形にはなっていると思います。
2GHzの帯域制限を適用した場合の波形は以下の通りです。
・おわりに
今回は自作のフィクスチャと2GHzのオシロスコープを用いてコンプライアンスモードが確認できるか実験してみました。
正式な測定環境での波形と比べると情報量は少ないですが、コンプライアンスモードが有効になっているかどうかの確認はできるのではないかと思います。
なお、コンプライアンスモードのうち今回の方法で確認できるのはCP0になります。CP1以降のモードを確認するにはping LFPSという信号を発生させる機材が必要なため実施は難しいかと思います。
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