* 2019年5月にリリースされたUSB2.0仕様書では本ページで扱っているECNが削除されました。本ECNが取り下げられた可能性があります。更新があり次第、再度本ページに記載いたします。
USB2.0のオリジナルの仕様は2000年に発行され、直近のECN(Engineering Change Notice)の発行が2014年となっており近年は特に大きな更新はありませんでした。ところが2018年の8月にUSB 2.0 DC Resistance(DCR)というタイトルのECNが追加され、昨年末の2018年12月21日にその内容が更新されました。このECNを確認したところ認証試験に新たに試験項目を加えるとの文言があり、USB製品の設計者およびテストラボの双方に影響がある可能性がうかがえます。
今回は、このECNについて参考訳を示したのちに考察を加えたいと思います。なお、原文はこちらからダウンロードできるZIPファイルに含まれております。
タイトル: USB 2.0 DCR ECN (Final) 20180814
適用先: Universal Serial Bus Specification, Revision 2.0
ECNの概要
- ケーブル製品についてD+およびD-の直列抵抗の最大値を定義します
- High-Speedに対応するDeviceについてD+およびD-の直列抵抗の最大値を定義します
- High-Speedに対応するCaptive DeviceについてD+およびD-の直列抵抗の最大値を定義します
- High-Speedに対応するDeviceおよびHost機器について「False Connect」「False Disconnect」の確認を認証試験に追加します
- 「False Connect」「False Disconnect」を回避するためにSilicon Design Guideに適切な切断検出の閾値の設計の項を追加します
ECNの発行理由
USB2.0の仕様ではシリコンとコネクタの間のD+とD-のデータパスの直列抵抗値については定義されていません。これが定義されていないことによりHigh-Speedに対応しているHost機器とDevice機器を接続したときに切断検出が誤発生してしまう可能性があります(false disconnect)。D+とD-の直列抵抗値が大きくなる要因としては複数のクロスバースイッチの使用やコモンモードチョークなどの受動素子の使用があります。切断検出の誤発生は以下の理由でEOP(End of Packet)のレベルが大きくなるときに発生することがあります。
- D+とD-の直列抵抗値が大きいことによる反射が大きくなる
- アイパターンの仕様を満たすために出力振幅(VHSOH)を大きくする
直列抵抗値が最大の状態でもUSB2.0の相互接続性を保証するために、Host機器の設計における適切な切断検出の電圧レベルの定義および直列抵抗値の最大値を定義すべきです。
既存のUSBデバイスおよびホスト機器への影響
ケーブル製品の直列抵抗値の仕様は0.6Ωから3.5Ωに緩和されます。そのため既存の製品への影響はありません。
High-Speedに対応するDeviceおよびCaptive Deviceに対する直列抵抗値の仕様が新規に追加されます。新しく定義される直列抵抗値の仕様はDeviceでは最大20Ω、Captive Deviceでは最大23.5Ωとなっており、ほとんどの実装では十分と考えられます。そのため既存のDeviceおよびCaptive Deviceへの影響は小さいと期待されます。
ハードウェア面で考慮が必要と思われること
ケーブル製品については特に不要です。
High-Speedに対応するDeviceの設計においては直列抵抗値を考慮しなければなりません。ただし、ほとんどのDeviceは現時点で仕様を満たしていると考えられます。High-Speedに対応するCaptive Deviceについても同様です。
High-Speedに対応するHostの場合は、本ECNで定義された最大の直列抵抗値の場合でも相互接続性を保証するために切断検出の閾値レベルを満たすように実装しなければなりません。Host機器はシリコンとコネクタ間の直列抵抗値が大きな場合でも認証試験に合格するために、既に似たような処理を実装していることがあります。
ソフトウェア面で考慮が必要と思われること
特にありません。
認証試験への影響
認証試験に以下の項目が追加される見込みです。
- ケーブル製品の直列抵抗値を確認します
- High-Speedに対応するDeviceに対して、あらかじめ調整されたHost機器 (calibrated Golden Host)との「false disconnect」試験を実施します
- High-Speedに対応するCaptive Deviceに対して、あらかじめ調整されたHost機器 (calibrated Golden Host)との「false disconnect」試験を実施します
- High-Speedに対応するHostに対して、ECNで定義される最大の直列抵抗値を持つ負荷 (calibrated load which has the maximum DCR)との「false disconnect」「false connect」試験を実施します
以上がECNの内容です。D+やD-の直列抵抗値が大きいことにより仕様よりも振幅が大きくなることでHost機器が間違って切断と判定してしまう現象が発生するとのことです。昨年になってこのECNが発行されたことと、ECNの内容からするとType-CコネクタのAlternate Mode関連の実装で問題が発生したのかなと予想しています。
最後に
USB機器を設計されているベンダにとっては認証試験に新たに追加される項目が気になるところかと思われます。現時点では試験に使用するcalibrated Golden Hostやcalibrated loadの情報が何もないため、この試験が正式に認証試験に追加される時期は当分先になるだろうと考えています。今後、新たに動きが見えてきた段階で再度お知らせしたいと思います。