QWERTY、キュワティ、キーボード配列の謎

普段何も気にすることなく使用しているパソコンのキーボードですが、アルファベットボタンの配列がなぜ今の配置になったのか不思議に思う方もいると思います。今回は、キーボードのQWERTY配列について調べてみたいと思います。

よく聞く回答

QWERTY配列の起源は、本や雑誌に解説が記載されていたりWeb検索すると諸説様々な内容が出てきます。「タイプライターが高速タイプに追従できず、打刻アームが絡んで苦情が多く出たため、高速タイプできないようにわざとタイプしにくい配列に決めた。」このような説明を聞いたり読んだりしたことがある方もいると思います。

キーボードの起源

キーボードはいつ頃生まれたのでしょうか。初めてキーボードを搭載した装置は米国で開発されたタイプライターだったようです。一般公開されていて容易に検索可能なソースとして米国特許データベースが挙げられ、参考文献No.1にも過去の米国特許を検索した結果と考察が記載されています。実際に米国特許データベースにアクセスしてみましょう。

米国特許検索

米国特許はWeb公開されており誰でも閲覧することができます。では、タイプライターに関連する特許を古い年代から検索してみましょう。しかし、1790~1975年までの古い特許を調べる場合は、キーワード検索が使えませんので分類番号のCurrent US Classification(Class 400 TYPEWRITING MACHINES)を指定して検索します。

USpat. Web Advanced SearchページのQuery欄にCCL/400/$($はワイルドカードを意味します。)を入力、Select Years: 1790 to present [entire database]を選択しSearchボタンを押すと32058件ヒットしました。一番古い32058件目の頁にジャンプするとタイプライターカテゴリー最古の特許は、July 23, 1829 X5,581 TYPOGRAPHER(活版印刷機)であることが分かります。図を参照するとキーボードは見当たらず、レバーを動かして文字を選択する仕組みになっているようです。

July 23, 1829. No.X5,581 TYPOGRAPHER. W.A. BURT.

年代が古い順から特許を調べていくと途中からキーボードが出現してきます。今回の特許検索で発見したキーボードを見てみましょう。

1. Aug. 11, 1868. No.81,000 MECHANICAL TYPOGRAPHER. J. PRATT.
キーボード配列は、3段構成でFVKGJQXH、AEIOUYWLR、BPMDTNSCZの順番に配置されています。本文、請求項にキーボード配列に関する記述は見当たりませでした。

2. Oct. 19, 1875. No.168,919 Printing-Telegraph. G.M. PHELPS.
キーボード配列は、2段構成でABCDEFGHIJKLMN、.ZYXWVUTSRQPOの順番に配置されています。本文、請求項にキーボード配列に関する記述は見当たりませでした。

3. Dec. 26, 1876. No.185,714 TYPE-WRITERS. R.T.P. ALLEN.
キーボード配列は、5段構成でWXZ23456、PQRSTV1Y、JKLMN”?:、BCDFGH-.、AEIOUY,;の順番に配置されています。本文41行目に以下文章があり後半は、キーボード配列について「使用頻度と利便性に従って配置されたキー(図中B)。」と記述されていますが、請求項にキーボード配列に関する記述は見当たりませでした。

At the upper or top part is arranged the movable carriage and paper feeding mechanism, while in front of the same are disposed, in suitable manner, but preferably in step-shaped manner, as shown in Figs.1 and 2, the keys B, arranged according to frequency and convenience of use, and provided with the letter of the alphabet, numerals, and the most common punctuation signs.

上部または頂上部は、可動性キャリッジと紙送りの仕組みが配置され、前面に同様に配置し、適切な方法で、しかし好ましくは図1と2に示す階段状に、使用頻度と利便性に従って配置され、アルファベットの文字、数字、最も一般的な句読点記号がキー(図中B)にて提供されます。

4. Aug. 27, 1878. No.207,559 Type-Writing Machine. C.L. SHOLES.
本特許のキーボードは、米国特許で最初に現れるQWERTY配列だと思います。キーボード配列は、4段構成で23456789-,-、QWERTYUIOP:、|ASDFGHJKLM、&ZCXVBN?;.!の順番に配置されています。キーボード2段目に着目すると、QWERTY配列が描かれていることが分かります。数字1とアルファベットI、数字0とアルファベットOを共有したり、アルファベットM、X、C配置が現在のQWERTY配列と異なるので本特許のQWERTY配列が最終ではなく、特許公開後もキーボード配列が変化していくようです。本文、請求項にキーボード配列に関する記述は見当たりませでした。

アルファベット出現頻度とキーボード配列

アルファベット出現頻度とキーボード配列の関係がどのようになっているか調べてみましょう。参考文献No.3のアルファベット出現頻度データを引用し、頻度に応じてQWERTY配列キーボードを色付けしてみました。出現頻度順に高: 赤色系、中: 黄色系、低: 水色系に色付けしてあります。

色付けしたキーボード配列を見ると、左小指~左人さし指~右人さし指~右小指の範囲に赤とオレンジが配置されているように見えます。気になるのは、低頻度なのにホームポジションにある右人さし指[J]と中指[K]くらいでしょうか。この結果から故意に打ちにくいキーボード配列にしたという訳ではないと思います。出現頻度は英語が前提ですが、漢字かな変換を使う日本語等の言語によって出現頻度は異なると思いますし、1800年代後半のタイプライター開発時と現在のアルファベット出現頻度も異なるかもしれません。しかし、少なくとも現在私達が使用しているキーボードは、打ちやすい配列だと思いますが読者の皆様の見解は如何でしょうか。

パソコン、周辺機器の認証試験

長期間に亘って人間とコンピュータの橋渡しをしてきたキーボードですが、もうしばらくすると別のインターフェースに替わる時代が来るかもしれません。最近では音声インターフェースを持ったデバイスが市場に出回ってきておりAmazon alexa、Google assistant等、実際に私達の身の回りで稼働している状況を見かけるようになりました。弊社では、音声インターフェース、通信機器、AV機器、IT機器の様々な有線、無線インターフェースのロゴ認証試験、接続互換性試験、フィールドクレーム解析等、長年にわたり実績を積み重ねノウハウを蓄積しています。また、お客様のご要望に応じたカスタムメイド解析評価等も承っています。通信機器、AV機器、IT機器に関するご相談、お困りごとがありましたらお問い合わせ頂ければと思います。

最後に

今回、キーボード配列について調べてみましたが、参考文献、米国特許、タイプライター開発経緯からQWERTY配列は故意に打ちにくいキーボード配列にしたという経緯は見つかりませんでした。しかし、過去にタイプライター開発競争、特許優先権争いが絡んでいたことは事実で、いつの時代でもビジネス競争や権利争いは絶えないようです。審査請求が認められるかは分かりませんがQWERTY配列特許を権利化できていたなら、今頃発明者は莫大な特許料収入が得られていたでしょう。

参考文献

  1. キーボード配列QWERTYの謎 安岡 孝一 (著), 安岡 素子 (著)…NTT出版
  2. 英語における文字頻度とタイプライターのキー配列 安岡 孝一
  3. Letter frequency.
  4. 米国特許、July 23, 1829. No.X5,581 TYPOGRAPHER. W.A. BURT.
  5. 米国特許、Aug. 11, 1868. No.81,000 MECHANICAL TYPOGRAPHER. J. PRATT.
  6. 米国特許、Oct. 19, 1875. No.168,919 Printing-Telegraph. G.M. PHELPS.
  7. 米国特許、Dec. 26, 1876. No.185,714 TYPE-WRITERS. R.T.P. ALLEN.
  8. 米国特許、Aug. 27, 1878. No.207,559 Type-Writing Machine. C.L. SHOLES.
  9. 米国特許、Terms of Use for USPTO websites (Copyright information).

Check Also

FeliCaリーダライタ検定試験~検定用互換性試験用カード&携帯電話機種変更!!~

アリオンでは主に海外メーカー様

Leave a Reply

Subscribe to get MCPC Technical Paper.
Subscribe
close-image
Subscribe to get the UHD Technical Paper.
Subscribe
close-image
Subscribe to get HDMI Technical Paper.
Subscribe
close-image
Subscribe to get Wi-Fi Technical Paper.
Subscribe
close-image
Subscribe to get USB Technical Paper.
Subscribe
close-image